昨年10月、世界選手権の女子で優勝した湯浅亜実の演技=ソウル(共同)
抱負を書いた色紙を手に笑顔を見せるブレイクダンスの湯浅亜実
来年夏のパリ五輪ではブレイクダンスが初めて実施される。米国のギャング抗争を起源とするヒップホップ文化として育ち、世界に人気が広がった新しいスポーツで五輪に新風を吹き込みそうだ。強豪国の日本はメダルラッシュが期待される。
パリ五輪でデビューするブレイクダンスは即興で技を繰り出し、1対1のバトル形式で勝負する競技だ。DJが奏でる音楽に乗って選手は最大1分程度、交互に踊り、技術や表現力などを争う。
立って踊る「トップロック」、床に手をついて素早くステップを踏む「フットワーク」、アクロバティックに動く「パワームーブ」、音に合わせて体を止める「フリーズ」の四つの要素で構成され、複数のジャッジが採点基準を基に評価する。
昨年10月の世界選手権で日本勢は男女で金、銀、銅のメダル3個を獲得。湯浅亜実(24)=ダンサー名・AMI=は2度目の世界女王に輝き、パリ五輪の金メダル候補に挙がる。パワームーブの一つで、床に背中をつけながら両脚を開いて回る「ウインドミル」に憧れて小学5年から習い始め、技の習得に熱中した。
四つの要素の中に基本技があり、構成は無限。各選手が身体能力や創造力を生かして追求する独自のスタイルも魅力だ。湯浅は技を切れ目なくつなぐ「フロー(流れ)」に強いこだわりを持つ。
もともと米ニューヨークの貧困地区サウスブロンクスで発祥したストリートダンスの一種。1970年代、縄張り争いを繰り広げていたギャングが暴力でなく、踊りで対決するようになったのが始まりとされる。同地区を舞台とした映画「ワイルド・スタイル」が83年に公開されたことなどを機に世界的に広まった。
そんな背景を踏まえ、湯浅は「ブレイキン」とも呼ばれる競技の醍醐味(だいごみ)を「出会いの幅が広がる。言葉を話せなくても、みんなで輪になって踊ったらつながれる」と言う。
特別な道具が要らず、狭い空間でも貧富を問わず踊れる手軽さから若者の人気に火が付いた。中学の時にオーストラリアを訪れて以来、世界各地で困った時にダンサーが初対面でも助けてくれた経験が身に染みている。
1年半後の五輪はパリ中心部のコンコルド広場が舞台。「五輪がきっかけで、やってみたいって思ってくれる人がいたら、すごくうれしい」と裾野が広がることを願う。
ブレイクダンスの世界選手権女王、湯浅亜実はパリ五輪の出場権争いが本格化する今年への思いを語った。
―2023年の抱負は。
「今まで通り、目の前のことに全力で取り組む。昨日の自分より、ちょっとでも成長しているように集中する」
―パリ五輪の金メダル候補に挙げられる。
「応援、期待してもらえるのはすごくうれしいけれど、プレッシャーに感じることはなくなった。大会前まで全力でやって、大会の日は『せっかくここまで頑張ってきた。ステージを楽しもう』と思うようにしている」
―22年を振り返って。
「行きたい大会に少しずつ行けるようになった。(優勝した7月の)ワールドゲームズは自分が楽しめ、結果につながったのですごく楽しかった」
―五輪に採用が決まった時の思いは。
「びっくり。ダンスはスポーツだけど、私にとってはアートに近くて正解がない。五輪はすごく大きい大会だし、面白そう。挑戦したいけど、私は五輪競技になる前からブレイキンが好きだった。そこも忘れずにいたい。五輪が全てではない」
―パリで表現したいことは。
「自分のやりたいダンスを続けたい。五輪で勝てなかったら、それでいい。逆に五輪(の採点基準)に自分のスタイルを合わせて負けたら後悔しか残らない。やりたいことを突き詰めて、全力でやれれば」
―競技の魅力は。
「ダンスを通して出会った人が多く、すごくありがたい。音楽があればどこでもできる。コンクリートでも、アスファルトでも踊れる。どんな地域に行ってもやっている。言葉が話せなくてもみんなで輪になって踊ったらつながれる。そのつながりはすごく大事」
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