自分自身の思いに向き合って、生田絵梨花は歩み続ける | ミュージカル俳優の現在地 Vol. 2 – ステージナタリー

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ミュージカル俳優の現在地 Vol. 2 [バックナンバー]
「できることはどんどんやっていこう」の一心で
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ミュージカルの作り手となるアーティストやクリエイターたちはこれまで、どのような転機を迎えてきたのか。このコラムでは、その秘められた素顔をのぞくべく、彼らの軌跡を舞台になぞらえて幕ごとに紹介する。第2回はグループ卒業後も羽ばたき続ける生田絵梨花が登場する。
透明感のある歌声と可憐なたたずまいが印象的な、“いくちゃん”こと生田。演技の幅を広げている生田の次回作は、ポップでキュートで“ぶっ飛んだ”ブロードウェイミュージカル「MEAN GIRLS」だ。「エンタテインメントにおいて一瞬でも長く、1人でも多くの方の役に立ちたい」と言う生田の、ミュージカル俳優としての“現在地”を紐解く。
取材・/ 中川朋子
──生田さんがミュージカルに憧れるきっかけになったのは、6歳くらいのときにミュージカル「アニー」を観劇したことだったそうですね。「アニー」のどこに惹かれたのでしょうか?
自分と同世代の子たちがキラキラしている姿を見て、「私もあの中に入りたい!」と思いました。当時から私は歌が好きでしたし、ミュージカルには歌もダンスもお芝居もあります。観劇しながらもう楽しくて楽しくて……あの時から舞台に憧れ始めたのを覚えています。
──6歳のときにはすでに歌がお好きだったんですね。
はい、気付いたら好きでした。5歳頃までドイツに住んでいて、現地で放送されていたアニメ「マドレーヌ」の主題歌や、ディズニーの「小さな世界」をたどたどしく歌っていた記憶がありますね。家族によれば、自作の歌も歌っていたそうです(笑)。
──想像するだけでかわいいです(笑)。生田さんの姿をテレビや舞台で観ていると、いつもとても落ち着いていて、良い意味で肩の力が抜けた姿が素敵だと感じます。子供時代からそのように、自分のペースを持った方だったのでしょうか?
いえ、全然! 学校で手を挙げて発言するのがとても苦手でした。今でも内面では力んだり、緊張したりしているんですよ。でも私が「素敵だな」と思うのは、力の抜けた雰囲気の方々。私自身も、ベストな状態を保つために自分のペースを守れる、柔軟な人になりたいと思って振る舞ってきました。だからそう言ってもらえると、憧れに近付けた気がしてうれしいですね。
──生田さんは十代の頃からアイドル活動と舞台活動を並行していて、とてもお忙しかったと思います。アイドル活動と舞台の活動を両立させる中で特に大変だったことはどんなところですか?
切り替えが大変でした。例えば2021年のミュージカル「レ・ミゼラブル」でエポニーヌをやっていた時期は、舞台を終えてから歌番組に出ると、自分の顔が抜かれたときにカメラをうっかりにらみつけちゃって、「いけないいけない!」と(笑)。逆にアイドルとしてライブをしてから舞台に戻って、周りから「キラキラしちゃってるよ!」と指摘されたこともありました。そのときはじっと床に座って過ごしたり、自分で手をつねったりして、エポニーヌの雰囲気に少しでも戻ろうとしていたことを覚えています。
ミュージカル「レ・ミゼラブル」2021年公演より、生田絵梨花扮するエポニーヌ。(写真提供:東宝演劇部)
──生田さんは2017年にミュージカル「ロミオ&ジュリエット」でヒロインを演じ、その後現在に至るまで大作ミュージカルや話題の舞台への出演が続いています。以前の生田さんには「ロミオ&ジュリエット」のジュリエットや「レ・ミゼラブル」のコゼットのように可憐な少女役のイメージがありましたが、「モーツァルト!」では夫との関係に苦悩する妻コンスタンツェ、2021年の「レ・ミゼラブル」では自分の心を隠して片思いの相手に尽くすエポニーヌを演じました。新しい舞台に出るたびに作品や役柄の幅を広げていらっしゃいますが、ターニングポイントだと感じた出来事があれば教えてください。
私はもともと「舞台が好き。やりたい!」と思ってこの世界に入りました。初舞台はただただ楽しかったのですが、舞台出演を重ねるうちに恐怖が上回って……実はかなり長い間、舞台に上がることやお客様に見られることが怖かったんです。でも2019年にミュージカル「ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812」(以下「グレート・コメット」)に出て、自分の感じ方が変わりました。「グレート・コメット」ではステージの中にも客席があったので、私たちもお客様の目の前で歌ったり踊ったり、隣の席に座ったりしていて。観客と演者が一体になって1つの作品を作り上げる感覚がありましたし、お客様の存在を近くに感じることで「お客様は味方なんだ!」と思えるようになったんです。もちろん今でも、舞台に立つことの怖さはあります。でも観てもらうことはパワーになるんだと思えますし、「お客様に伝えたい」という気持ちや、「お客様が私たちの表現を受け取ってくれているんだ」という手応えが、その恐怖を上回るようになりました。
ミュージカル「ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812」より。(写真提供:東宝演劇部)
──見られることを表現する力に変えられるようになったのですね。生田さんは舞台で役を演じながら歌うときと、芝居の中ではなく歌手として歌うときとで意識は変わるのでしょうか?
ミュージカルにはミュージカルの、ポップスにはポップスの歌い方があるので、いろいろな歌い方ができるように意識はしています。それからミュージカルではセリフのように、その役の言葉が音に乗っている感覚を持って歌っています。でもポップスにおける“主人公”は聴いている人であることが多いと思っていて。だからポップスを歌う私はストーリーテラーとして、ちょっと俯瞰した目線に立っている気がしますね。
──お芝居をする生田さんを観ているときも、ご自身の演じるキャラクターが劇中でどんな役割を果たすのかを一歩引いた視点で分析しつつも、確かにその物語の中で生きていらっしゃるなという印象を受けることがあります。いつもどのように役にアプローチしているのでしょう。
役の状況をよく考えながら心情を想像することを心がけています。例えば「レ・ミゼラブル」のエポニーヌは、当時の私自身のイメージからかけ離れた役でした。だから普段の身のこなしからエポニーヌっぽさを取り入れてなじませようと思い、少し脚を広げて椅子に座ったり、姿勢を悪くしたり、言葉遣いを悪くしたり(笑)。それからミュージカルだと、歌い方も役に近付くためのキーになると思っていて。「この役だと若々しい明るい響きが良いかな」「この役では地に根を張るような歌声が良いかな」と研究していくと、セリフの言い方や顔つき、雰囲気も自然と声についてくる気がします。
──外側に表れる仕草や声からイメージを膨らませて、そこから役の心情にも近付いていくという感じでしょうか?
ああ、そうですね! 役の“外側”を手がかりに内面を考えているところはあるのかも。それに「私自身はこう思うから」と自分の考えに固執せず、その役の性格や考え方が自分の中に存在するんだと信じることも大切だと思っています。
──生田さんが乃木坂46を卒業して約1年です。1人のアーティストとして歩み始めて、どのような変化がありましたか?
グループのメンバーだった頃は「足並みをそろえて、みんなと一緒にやっていこう」と、周囲に合わせる気持ちが強かったんです。だけど今は「好きなものは好き」とか「これをやってみたい」とか、自分自身の思いに向き合うことも増えたなって。それと同時に自分の考えだけに固執しないで、周囲から「こうじゃない?」と言われたことも新しい価値観として吸収するという経験もたくさんできていて……それが独り立ちして変わってきたと感じているところです。
ミュージカル「レ・ミゼラブル」2017年公演より、生田絵梨花扮するコゼット。(写真提供:東宝演劇部)
──1月30日には主演ミュージカル「MEAN GIRLS」が開幕します。生田さんはブロードウェイで同作を観劇し、いつかご自分もやってみたいと思ったそうですが、この作品のどういうところに惹かれましたか?
これまで出演してきた舞台には悲劇や歴史的な重みがある作品が多かったのですが、「MEAN GIRLS」はハッピーでキュートで少し毒気もあって面白かったんです。女の子がメインのミュージカル作品はあまり多くないですし、もし「MEAN GIRLS」の日本版があるならぜひケイディを!と思っていました。日本版の台本を読んだらパンチが強くて「攻めてるなあ!」と(笑)。大胆なセリフも多くて、“ぶっ飛び”具合が強調されている気がします。これをどれだけ思いきり演じられるか、緊張しつつも期待が高まっています。
──生田さんが演じるケイディは、ケニアで16年過ごしたあと初めてアメリカの高校に入学するという役どころです。ケイディを演じるうえで大切にしたいポイントや、ケイディに感じるご自分との共通点は?
ほかのみんなは学校内のカーストに従って自分の役割・立場に収まろうとしますが、ケイディは思うがままに振る舞って浮いてしまいます。そこに疑問を持たないケイディが素敵だと思うんですが、彼女もだんだん周りに染まってしまうので、その変化を面白く伝えられたら。変わってしまったケイディは周囲から「それ間違ってない?」と指摘されますが、そこでは私自身の経験も思い出しましたね。ケイディにとっては、友達のダミアンとジャニスがいろいろと気付かせてくれる存在なのかなって。流されたり、立ち止まったり、引き戻されたりするケイディを、共感しながら演じたいです。
ブロードウェイミュージカル「MEAN GIRLS」ビジュアル
──演出・上演台本・訳詞の小林香さんとは、2019年の「グレート・コメット」以来のタッグですね。小林さんにはどんな印象をお持ちですか?
「グレート・コメット」では、香さんが歴史的な背景を丁寧に教えてくださったり、いろいろディスカッションしたりしたことが印象的です。「MEAN GIRLS」の歌稽古では、香さんに歌詞についていろいろご相談しました。「MEAN GIRLS」の音楽はアメリカンポップスなので、日本語を当てはめるのがとても難しい。歌いながら「こうするともっと聞き取りやすいかも」「さらに意味がわかりやすくなるかも」と思った箇所をご相談すると、香さんも親身になって考えてくださってありがたかったですね。「グレート・コメット」は歴史ものでしたが、「MEAN GIRLS」はコメディ。私たち2人にとっても大きな挑戦になりそうで、楽しみです!
──2023年も生田さんの活躍に期待しています。舞台以外にもさらにお仕事の幅を広げる生田さんの、モチベーションの“核”は何なのでしょうか。
私、芸能のお仕事じゃなかったら本当に何もできないと思うんです(笑)。だけど今ここにいさせてもらっているからには、エンタテインメントにおいて一瞬でも長く、1人でも多くの方の役に立ちたい。そのために自分ができることはどんどんやっていこうという一心で、今後もお仕事していきたいです。
1997年、ドイツ・デュッセルドルフ生まれ。乃木坂46のメンバーとして活躍し、2021年に卒業。グループ在籍時から多数の舞台に出演し、ミュージカル「モーツァルト!」「ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812」で2019年に菊田一夫演劇賞を受賞した。近年の主な出演舞台に「レ・ミゼラブル」「ロミオ&ジュリエット」「キレイ―神様と待ち合わせした女―」「ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド ~汚れなき瞳~」「四月は君の嘘」などがある。
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