1990年代に隆盛を迎えたインダストリアルロックは、サンプリング+ドラムの打ち込み+メタルのギター+叫び声という感じのダークな音楽だ。二大バンドの一つ、ナイン・インチ・ネイルズ(NIN)はただ騒々しいだけでなく、動と静のメリハリの付け方がうまくて深みがあり、今なお引きつけられる。
バンドといっても実質的にトレント・レズナーの1人プロジェクト。歌手プリンスやプログレッシブロックバンドのピンクフロイドにも影響を受けたといい、音作りへのこだわりが似ているかもしれない。
かつて毎晩聴いたほど好きな曲が「ハピネス・イン・スレイバリー」のリミックス版(1992年のEP「フィックスト」に収録)。ドラムと電子音のビートの繰り返しが延々と続き時折、叫び声が入る。中盤のドラム連打と浮遊するような電子音が圧巻。サラウンド感満点で、ヘッドホンかイヤホンで聴いてほしい曲だ。機械が空回りするような音がしてプツッと途切れる終わり方も面白い。
94年の傑作アルバム「ダウンワード・スパイラル」の収録曲では「ルイナー」がお気に入り。序盤の電子音は80年代の米テレビドラマ「ナイトライダー」のオープニングを思わせる。サビの部分はホーンセクション風のシンセサイザーで、ドボルザークの交響曲第9番「新世界より」第4楽章を思わせる荘厳さ。
後半、パタッと静かになったかと思うとフロイド風の泣きのギターが入る。往年のロックへのオマージュとしてフロイドの曲「コンフォタブリー・ナム」をイメージして弾いたらしい。
メタルの大物バンド、ガンズ・アンド・ローゼズのアクセル・ローズ(ボーカル)に気に入られ、ガンズにも影響を与えたようだ。
ガンズの91年のアルバム「ユーズ・ユア・イリュージョン2」の収録曲「マイ・ワールド」は、インダストリアルロックに触発されたアクセルの異色作でアルバムの中では浮いた存在。ガンズはその後、目指す方向の違いなどから他のメンバーが抜けて崩壊しており、一因にアクセルのインダストリアルロック傾倒があったかと思うと、興味深い。
ちなみにインダストリアルロック二大バンドのもう一組、ミニストリーはNINと比べればメタルの延長線上との印象。メタルの元祖、ブラックサバスの名曲「アイアンマン」のカバーは疾走感にあふれて秀逸だが、オリジナル曲で特筆するほど好きな作品はない。
NINの方こそ多彩な音楽を取り込み、ロックの幅を広げた革新者だと思う。
(志)
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