【西山瞳の鋼鉄のジャズ女】第42回 イングヴェイ・マルムスティーンの新作『Parabellum』は、恐ろしくネオ・クラシカル濃度の高いアルバムだ!! – Mikiki


ジャズ・ピアニストでありながらメタル・ファンとしても知られる西山瞳さんによる連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。今回は、西山さんがこよなく愛する超高速速弾きギタリスト、イングヴェイ・マルムスティーンが明日7月23日(金)にリリースする約2年ぶりのアルバム『Parabellum』についてです。西山さんのテンションもいつもより高めなようで……? *Mikiki編集部
★西山瞳の“鋼鉄のジャズ女”記事一覧
 
先日、ある友人とこんな会話をしました。
私「この前、映画館で『るろうに剣心』を観たからだと思うんだけど、夢に佐藤健君が出てきて、なぜか一緒に買い物している夢で、いやーめっちゃ得したわー! 健君のこと好きになったかも!」(怖いものなしのアラフォー)
友人「好きなんやったら、イングヴェイは夢に出ないの? 夢でイングヴェイとデートしないの? しようよ!」
しないよ!!!
 
ということで皆さん、我らが王者イングヴェイ・マルムスティーンの新作『Parabellum』が明日7月23日(金)に発売になります。
東京都イングヴェイ区マルムスティーン1丁目在住、デビュー盤のレコーディングでスウェーデンに録音に行くことになり「スウェーデンのジャズって知ってる? 聴いていたミュージシャンいる?」とプロデューサーに聞かれて即答で「イングヴェイ」と言った私は、何があってもイングヴェイを称えます。
イングヴェイを称えよ!
 
前作『Blue Lightning』は、ジミ・ヘンドリックスとブルースへの愛を惜しげもなく披露したカヴァー・アルバムで(ご本人はヴァリエーション・アルバムとおっしゃっていました)、以前の記事でレビューしました。
ネオ・クラシカル・ヘヴィメタルと呼ばれ、バッハやパガニーニのフレーズを織り込み、高速かつクリアでエモーショナルに演奏するイングヴェイ。
 
イングヴェイに関しては、昨年沢山の方に読んで頂いたこの記事もぜひご覧下さい。
「イングヴェイの速弾きのキモは、正確さとそれを超える官能性であることだと思っています」
良いこと書いてますね、私!
 
さて、今回は2016年作『World On Fire』以来のオリジナル・アルバム。一足先に聴かせてもらいましたが、感想を一言。
「ネオ・クラシカルが過ぎる!」
きたー! ネオ・クラシカル全開のイングヴェイが! すごいです、ネオクラオタクもびっくり、悶死する濃度でやってきました。
コロナ禍でツアーができない中で制作されたこのアルバム。よっぽど取り組む時間が長かったのでしょう。とりあえず物量(=音符数)が多い。過剰なのは良いことです! 今回もドラム以外全部自分で演奏しています。
 
イングヴェイの新譜が出ると、
「自分で歌わずヴォーカルは他の人を雇ってくれ」
「音が悪い」
と必ずファンから言われるんですけども、いいんですよ! イングヴェイがいいと思ったのなら、それが正解です。
 
今作は、ほとんどがインスト曲です。歌がどうだとかいう余地がないぐらい、ギターを弾きまくっています。むしろ、ギター・ソロのお膳立てをするための歌。ネオ・クラシカル・ブルドーザーで全てをガーーっと飲み込んで進む、なんだかとても勢いのある作品でした。
 
1. “Wolves At The Door”
冒頭から、イングヴェイが右から左から聞こえてくる!
これは『World On Fire』の2曲目“Sorcery”でやった、リフを右から左からとパンして重ねていくアレの最新ヴァージョンですね。最初『World On Fire』で聴いた時は思わず「しつこいわ!」と突っ込んでしまいましたが、今回はオープニングに使っていて良い感じです。
そして早速パガニーニの引用がきた! これぞイングヴェイな1曲。
 
2. “Presto Vivace In C# Minor”

〈プレスト・ヴィヴァーチェ〉といえばU.K.の名曲がありますが、あれはテンポ自体はそこまで速くなかった。
イングヴェイのプレスト・ヴィヴァーチェはどんなのだ?と期待して聴き出したら、あれ、テンポ遅いぞ……? BPM=83で、32連符で弾いています。プレスト(※)ってそういうことじゃないから!と突っ込みつつも、めちゃめちゃに速いです、イングヴェイだけ。イングヴェイのみがPresto! ※音楽用語で〈急速に〉の意
しかし、これは仮にツアーがあったらライブで演奏できるんでしょうか。あまりの音数と速さで、常人だったらまあ速攻腱鞘炎ですよね。
 
3. “Relentless Fury”
ミドル・テンポのヴォーカル曲。前のオリジナル作品『World On Fire』の時は歌が引っ込んだミックスで、何を歌ってるかわからないところがありましたが、今回は非常にクリアで良いです。アルバム全体的に、ヴォーカルは今までで一番聴きやすいと思いました。
イングヴェイのミドル・テンポの演奏は良いんですよ。歌心がイイ!と思うのですが、ギター・ソロに突入した途端、ギターはまだプレストのままでした。もうちょっと溜めて待って欲しい……溜めたイングヴェイも聴きたい……と思いつつも、全肯定です。
 
4. “(Si Vis Pacem) Parabellum”
BPM=300超えの高速チューン、ハーフ・テンポになったり、クラシック的なトゥッティ(※)があったり、非常にエモーショナルな曲です。 ※全合奏、総奏の意
このアルバム全体を通してですが、やはりツアーがなく制作に打ち込めたからなのか、ギター・プレイも最近の中では一番丁寧に聴こえます。この一曲は、豚骨ラーメンにトッピング全部載せておまけにラー油も沢山ぶっかけたような仕上がりです。ご馳走様です。うへえぇ。
 
5. “Eternal Bliss”

こういうのが好きなんですよ、イングヴェイ・バラード。うん、これはピアノで弾いても美しいですね。
歌も良いです。良いと思います。イングヴェイにいつも「自分で歌うな」とおっしゃる方、お気持ちはわかりますが、騙されたと思って〈これはイングヴェイではない、他人だ〉と思って聴いてみて下さい。結構良いと思うんですけど……。
 
6. “Toccata” 

疾風のように速いインスト曲! 雑誌「ヤングギター」のYouTubeで公開されているインタビューで、「自分のソロのアイデアはヴァイオリンからきている」というようなことを話していましたが、本当にヴァイオリンのソロみたいですね。
これ、とても良いインタビューですのでぜひどうぞ。
昔から、イングヴェイのアルバムが出るたびにお祭りになるヤングギター誌、その変わらない姿勢に超リスペクトです。私も負けないぞ!
 
7. “God Particle”

バンドが入ってきたところのギター、これだけアルペジオするのって難しくないのですか? 私はロック・ギターは好きですが、テクニカルなことはあまりわからず聴いています。ヘヴィメタル楽曲を演奏するNHORHMで、ギター・ソロをコピーすることは沢山ありましたが、ピアノでは楽勝なことがギターでは難しく、ギターでは楽勝なことが跳躍が大きくてピアノでは弾きにくいことが多かったりします。
 
8. “Magic Bullet”

前述した〈ピアノでは楽勝なことがギターでは難しく、ギターでは楽勝なことが跳躍が大きくてピアノでは難しい〉の最たるものは、この最初の同音連打です。かっこいいですね。
 
9. “(Fight) The Good Fight”

アルバム頭から順に聴いてきて、そろそろイングヴェイ濃厚味に満腹になってきた頃ですが、前曲から続いて同じようなテンポ、ドラム・パターンの曲を続けて強引に寄り切ってしまうのがイングヴェイ・スタイル。
ジャズだと〈誰かが埋めたら、他の誰かはスペースを開ける〉ということで、演奏者全員でアンサンブルの交通整理をするのですが、王者はそんなの知らねえ! ど真ん中を爆走ですよ。王者には王者の走り方がある!
 
10. “Sea Of Tranquility”

最後の最後でネオ・クラシカル特盛りの1曲。ショパンのピアノ曲のようなアルペジオをナイロン弦の音で聴くなんて。怒涛の6連符、よくこんなものが弾けるなと思いますが、これだけ速い音を洪水のようにとめどなく弾いているのに、速いだけという他人事のような印象にはならないのがイングヴェイですよ。なんか、耳が持っていかれるんですよね。タイムのせいか音色の色気のせいか定かではありませんが、他の速弾きギタリストとは全然違う、圧倒的な華と魅力があるんですよね。
 
世の中のほとんどの音楽では〈緩急〉というものがありますが、1枚アルバムを聴き終えて、ほぼ〈急〉しかない恐ろしいネオ・クラシカル濃度のアルバムでした。いやー、満腹です。
私はイングヴェイのミドル・テンポやバラードで大きく歌っているギターもとても好きなので、そういうプレイも少し聴かせて頂ければ……とも思いましたが、これは私が夢で勝手に見たらいいやつですね。王者に望むなんておこがましい!
 
そして、今までにない珍しいパターンのジャケットだなと思っていたら、こんなことらしいです。
The mural is the work of David Banegas visual artist & painter The mural was produced in order to raise awareness and funds for children in foster care who especially need those things during this difficult time Original painting will be auctioned support children in foster care. pic.twitter.com/0zU7djJWrn
ほら!やっぱり王者ですよ!!
「俺は貴族だ。正確には伯爵だ」というだけあって、ノブレス・オブリージュを当たり前に実践していらっしゃる。
これが私たちの愛する王者、イングヴェイです!
 
ということで、新作『Parabellum』、聴きましょう!
イングヴェイを称えよ!!
 
LIVE INFORMATION: 西山瞳
2021年8月7日(土・昼)15:00~YouTubeチャンネルにてライブ配信予定
西山瞳ソロ
https://www.youtube.com/user/hnofficialm
2021年8月13日(金)兵庫・東リ いたみホール(電話072-778-8788)
西山瞳ソロ
2021年8月15日(日)京都・NAM HALL(電話075-741-8576)
デュオ(西山瞳(ピアノ)、鈴木孝紀(クラリネット))
2021年8月18日(水)埼玉・蕨Our Delight(電話048-446-6680)
西山瞳ソロ
★各ライブに関する詳細はこちら
RELEASE INFORMATION
西山瞳トリオ、7年ぶりスタジオ・アルバム『コーリング』2021年9月15日(水)リリース!

リリース日 :2021年9月15日(水)
価格:2,970円(税込)
レーベル:Meantone Records
西山瞳(ピアノ)、佐藤”ハチ”恭彦(ベース)、池長一美(ドラムス)
TRACKLIST
1. “Indication”
2. “Calling”
3. “Reminiscence”
4. “Lingering In The Flow”
5. “Etude”
6. “Loudvik”
7. “Drowsy Spring”
8. “Folds of Paints”
 
PROFILE:西山瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシック・ピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I’m Missing You』を発表。ヨーロッパ・ジャズ・ファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズ・プロムナード・ジャズ・コンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズ・フェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。
以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコード・ジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラー・トリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。
自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグ・バンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズ・プロムナードをはじめ、全国のジャズ・フェスティヴァルやイヴェント、ライヴハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。

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