Mori Calliope、リスナーを魅了する“不完全性”の正体 ネットラップやK-POP文化が交差する特異な音楽性 – リアルサウンド

 以前から重層的なキャラクター性と背景にある複雑な音楽ルーツが織りなすいびつさに興味を惹かれており、しかもそのキメラ的な奇形美を異常なほどクオリティ高いラップスキルが支えるとなるとますますその不均衡さは極まるわけで、そういった事情もありMori Calliopeというラッパーのことをひっそりと追いかけていた事実をまずは認めなければならない。2020年の秋にオリジナル曲をリリースして以降ヒットを連発しているVTuberラッパーを私は興味深く観察してきたのだが、そのいびつな魅力を説明するにはまず一見何の共通点もなさそうな“K-POP”という文化を入り口にするのが適切かもしれない。
 というのも、今回リリースされたMori CalliopeのメジャーデビューEP『SHINIGAMI NOTE』は、アーティフィシャルな手つきによって寸分の隙もなく編纂されたまぎれもないK-POP的強靭さを備えた作品であるからだ。当然ながら、ここで示している“K-POP”とは単なる韓国のポップスを指しているわけではない。近年のグローバルでのマーケットを席巻し、いわゆるカルグンムと呼ばれるような一糸乱れぬダンスパフォーマンスを展開するグループによる特定の音楽的特徴を形容している。つまり、先鋭的なダンスミュージックやヒップホップの雑食性高いビートを基盤にしつつ、ラップと歌を駆使しながらそれらが拡散する音楽性を中央集権的なダンスのフォーメーションで収斂させていく、極めて人工的な音楽のことである。
 これまでも「失礼しますが、RIP♡」等の曲でエミネムを模したような緻密なラップを展開していたMori Calliopeだが、『SHINIGAMI NOTE』は、そのラップの安定飛行をキープしたまま日本語の割合を増やし、より一層英語と日本語の融解に挑み言語の壁をなくしている。同時にビートは節操ないほどにジャンルの統一感を忘れ、Ryosuke “Dr.R” Sakai、Giga、TeddyLoid、DECO*27等優れた作家陣による雑多なプレゼンテーションが展開される。
 「Holy嫉妬」のオーセンティックなヒップホップ性から始まり、J-POPとアニソンのトーンを存分に発揮した「CapSule」、バングラビートがベースミュージックの凶暴性へ接続され発展を見せる「MERA MERA」、K-POPの性質をトレースしたような「Make ’Em Afraid」などがハイファイな図太いサウンドで骨格を組み立て、同ジャンルの強靭な音に接近していく。特に「MERA MERA」のエキゾチック性は、Gqom(ゴム)とフィジェットハウスを融合しダンスポップとして昇華させたRed Velvetの名曲「짐살라빔 (Zimzalabim)」を彷彿とさせるだろう。Mori Calliopeは、K-POP的な人工性ーーグローバルの様々な音楽的意匠を飲み込みプロダクトとして正確にアウトプットするようなつるんとした無機質さーーを、これでもかとなぞっているようだ。日本語の発音も非常に巧みになってきており、そこにはビートやラップによるヨレやズレ、齟齬を回避しようとする完璧主義がうかがえる。

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