「近代」を目指して日本が歩んだ道は間違っていない – Newsweekjapan

河東哲夫 外交官の万華鏡
日本が近代へと歩み始めた60年代初頭のひばりが丘団地(時事通信)
<多くの先進国で近代や資本主義を否定することが一種の流行になっているが……>
この頃の日本は、気のめいることばかり。隣の中国のGDPは日本の4倍、韓国は1人当たりGDPで日本を近く抜き去る勢い。北朝鮮は日本の頭上にミサイルを飛ばして、「日本は目じゃない」と平然。国内は、アベノミクスの積み残しのゼロ金利にしがみついて、インフレの垂れ流し──。自分たちはもう駄目なのか。いったい、何を目指してどこに行こうとしているのか、さっぱり分からない。
そう思って、ある日駅前のスーパーに行くと、写真展をやっていた。この地域の戦後の風景を並べたものだ。懐かしい昭和の面影の数々。その中に、「ひばりが丘団地・歴史的建造物」というのがあった。「歴史的建造物」……そうなんだよなあ。当時の思い出がずるずると芋づるのように、頭の中から引きずり出される。
あのコンクリートのしっかりした、ハイカラな集合住宅。一戸ごとに「キッチン」が付き、風呂まで付いている。一人一人が人間らしい生活のできる近代は、あの頃始まったのだ。まさに「歴史的建造物」。
そしてそれから60年。ひばりが丘団地は古くなって建て替わり、日本人の生活もまた様変わりとなる。6畳間、4畳半といった狭苦しい和風間仕切りより、洋式インテリア。広々とした「リビング」、「ダイニング・キッチン」の時代となった。都市のインフラは便利で清潔。地方も60年前とは見違えるほど、ビルや道路は整った。
そして何よりも人間が変わった。女性が男性にほれ、捨てられて、それでもしがみつく、自分という主体がない演歌の世界はもうかなた。若者のJ-POPは「自分でありたい。自分を実現したい」という意欲を堂々と歌い上げる。就職した組織に一生とどまる者は減って、若者たちは主体的に転職を考えるようになった。
著書『ジャパン・アズ・ナンバーワン』で知られた故エズラ・ボーゲル教授はある時、元気のない日本人インテリたちに言った。「GDPで中国に抜かれてもいいじゃないですか。日本人の生活は、アメリカ人をもう抜いているんですから」と。そのとおり。彼の地元のボストンに行ってみると、地下鉄などは途上国の様相を呈していて、中産階級以下の人々の生活は日本のほうがもう良くなっている。
この60年で日本は変わったのだ。ほとんど別の国に。さらに言えば、東南アジア諸国を筆頭に、日本は周辺諸国の経済近代化にも大きな役割を果たしてきた。もっと自信を持ったらいい。日本の歩んできたコースは間違っていなかったし、いま歩んでいる方向も、間違ってはいない。
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(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら
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