キタニタツヤにとっての至福のオフ 〜オフに聴く音楽と、ファッション&休みの過ごし方 – KKBOX

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ミュージシャンの「オン」と「オフ」を覗く連載「至福なオフ」。「オン」のモードで作り上げた作品についてはもちろん、休日の過ごし方や私服のこだわり、聴いている音楽など「オフ」の話題にも触れています。
今回のゲストは、シンガーソングライターのキタニタツヤさんです。2014年にボーカロイドプロデューサー「こんにちは谷田さん」としてネットシーンを中心に注目を集め、2017年からはバンド「ヨルシカ」のサポート・ベーシストに参加、2018年にはバンド「sajou no hana」の活動を開始。そのかたわらソロ活動や作編曲家として他アーティストに楽曲提供も行うなど、多彩な経歴の持ち主であるキタニさん。5月25日にはソロ名義でメジャーデビュー後2枚目となるアルバム『BIPOLAR』をリリース。本アルバムのコンセプトや楽曲制作について語っていただきました。さらに私服事情や休日の過ごし方、最近よく聴いている音楽など、キタニさんならではの「オフ」のお話もお届けします。

ー今日の私服は古着だそうですね。
キタニタツヤ(以下、キタニ):古着って気を遣わなくていいじゃないですか。新品の白いTシャツに汚れがついたら「この服はもうダメだ……」ってなるから、安易にカレーうどんも食えないし。洗濯する時はネットに入れた方がいいのかで悩むし。新品で買った服は、着る時にプレッシャーがかかるから、そういう意味で気兼ねなく着れる古着が好きです(笑)。同じ理由で靴はスニーカーが多いです。気負わなくていいので(笑)。
ー「気負わないアイテム」という軸があるんですね(笑)。好きなアイテムの傾向はありますか?
キタニ:ストリート系が多いと思います。昔から人前に出る時は全体的に細めのシルエットが多いのですが、普段着はゆるっとダボッとしているものが好きなんですよね。
ー個人的にTシャツのインパクトの強さが気になります。
キタニ:セットアップが暗めなので、中に着るものは派手な色が良いなと思って。一点派手な色があった方がテンションが上がるから。今日は適当ですけど、靴下だけ派手にするとかもよくします。

ー何かコレクションしていたり、こだわっていたりするファッションアイテムはありますか?
キタニ:こだわりのアイテムか……あ、パンツ!
ーまさかのパンツ(笑)。
キタニ:よく実業家が同じ服を50着持っているとかあるじゃないですか。それと同じような感覚です。見えないところに気を配っているのってオシャレっぽいなと思って。ユニクロのパンツを卒業してポールスミスの全く同じパンツを10枚買って着回しています。これで俺もミニマリストだ!って思いながら(笑)。
ーポールスミスなのは何か理由が?
キタニ:売れているアーティストっぽいので……(笑)。
ー続いてオフの過ごし方について。キタニさん漫画好きとのことですが、オフの時間はやっぱり漫画を読んでいるのでしょうか。
キタニ:よく読んでいますね。何も考えずにいられる時間です。思い立った時に一気買いしていて。電子(書籍)だと場所を取らないから無限に買えてしまうので、バーチャル積読して時間ができたら読むパターンが多いです。
ー好きなジャンル、よく読むジャンルとかはあるんですか?
キタニ:しいて言えば、SF系か日常系ですかね。

ーそれぞれのジャンルでオススメの漫画をぜひ教えてください!
キタニ:直近で読んだのは『ナンバMG5』というめちゃめちゃ喧嘩しまくるヤンキー漫画なんですけど(笑)。SF系?サイエンス系?だと『ナチュン』かな。サブリミナル的に人間の脳に影響を及ぼすイルカが泳いでいるだけの映像を見た主人公が、めちゃくちゃ頭が良くなって世界の真理に気づき、ゴタゴタに巻き込まれていくーーってよく分かんない漫画だったけど、カッコよくて面白かったですね。あとは『AIの遺伝子』っていうテクノロジーと医療が結びついたSF版『ブラックジャック』みたいな漫画もめっちゃ面白かった。
日常系だと真造圭伍先生が今連載中の『ひらやすみ』ですね。真造先生にすごくハマって、デビュー作から出版されている作品は全部買いました。短編集も面白かった。松本大洋先生が大好きなんですけど、ちょっと近いところがありますね。
ーそういう漫画の情報はどう得ているのでしょう。
キタニ:Twitterの広告から読むことは多いですね。あとは、フォローしている漫画家さんがTwitterでリツイートしている漫画とか、インタビューで影響を受けた・面白いと言っている作品とか。情報の取り方は音楽とあまり変わらないですね。
ーそれでいうと、漫画が楽曲制作のヒントになることもあるんですか?
キタニ:日常の何でもない中にあるちょっとした人間ドラマは歌詞のヒントになることが多いですね。そういう意味でも日常系を一番読みます。とはいえ、ヒントを得よう!と思って読み始めると仕事になってしまうので、無意識のうちにヒントが入ってきたらいいな、くらいの気持ちで。ただ純粋に漫画を摂取したい時にはSFが嬉しい。
ー事前にリストアップしていただいたオフの日に聴く音楽、かなり幅広いなと思う一方、「a l m o s t b u t n o t」「ポストシェルター」はやっぱりボカロ楽曲がお好きなんだなと。
キタニ:ボカロをまた聴くようになったのは最近なんですよ。自分がボカロ音楽の制作をしなくなってから、知り合いのボカロPの曲以外は聴かなくなっていたんですが、最近また面白いボカロPが自分の観測範囲に入ってきて。年下の世代の新しいボカロPの新しい曲を掘るように。
ー新しい世代のボカロPって、確実にキタニさん(こんにちは谷田さん)の楽曲を聴いていた世代ですよね。
キタニ:Twitterをフォローしてくれている人もいますね。なんか恥ずかしいし変な感じです。新しい世代の曲を聴いては、自分よりよっぽどすごいな……って感じています(笑)。デスクトップミュージックって制作手法が人それぞれ違って、みんな独学だしガラパゴスなんですよ。どれだけすげえ裏技を見つけられるか、みたいなところがめっちゃ多くて。そういう話しを若い人たちから聞いてみたい欲求がすごくあります。

ーボカロ楽曲からの「Don’t Boo! ドンブラザーズ」のインパクトが凄まじい。スーパー戦隊『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』の主題歌ですよね?
キタニ:あはは(笑)。俺は特撮ファンではないんですけど、特撮好きの友人が「めっちゃファンクな曲だ」とSNSで呟いていて。特撮の楽曲がファンクなわけないだろ……と思って聴いてみたら、めちゃくちゃファンクだった(笑)。森崎ウィンさんめちゃくちゃ歌が上手い。今の子どもたちは毎週この曲を聴いているわけでしょ? 日本の未来は明るいなと思いました。
ー(笑)。
キタニ:ファンクが好きなので、それでいうと「コミュニケーション・ブレイクダンス」もですね。俺がSAKANAMONのライブをよく見に行っていた時の入場SEだったんですよ。当時はShazam(コンテンツ特定ツール)とかがなかったから誰の何ていう曲か知らなくて。なんとなく記憶に残っていたところで、つい最近バーに行ったら偶然流れて、ウワー!ってなったという(笑)。それでShazamで特定したら、SUPER BUTTER DOGか!って。こんなにカッコいいのかよ!と思って、今この曲が入っているアルバムをめっちゃ聴いています。
ー文明の利器で再発見できたというわけですね。あとリストの中で音楽性としてちょっと違うと感じたのが「勝ち負けじゃないと思える所まで俺は勝ちにこだわるよ」。
キタニ:MOROHAはずっと大好きで、この間も武道館のライブを見に行きました。自分が音楽をやっていて悩むようなことを歌詞で全部言ってくれるから、「音楽に背中を押されている」ってこういうことだなと思っています。橋本絵莉子さんの「脱走」も歌詞がめっちゃ良くて、この2曲はパンチライン枠として入れました(笑)。
ーとすると、洋楽3曲はサウンド枠?
キタニ:そうですね。一番新しいサウンドのヒントをもらおうと思ったら洋楽を掘ります。俺、めっちゃ早いロックな曲かめっちゃ遅いグルービーな曲が好きなんですけど、spill tabの「Grade A(feat. JAWNY)」はどちらでもなかったんですよ。それがツボで。いつか絶対、自分の音楽にも取り入れようと思ってずっと聴いています。
ー音楽は「自分の音楽の参考にしよう」と思いながら聴くことが多い?
キタニ:そういうモードで聴く時と何も考えずに聴く時とで心を切り替えます。MOROHAや橋本さんは自分の血肉にしようと思って聴いていないけど、洋楽は自分の音楽に取り込めるんじゃないかと思いながら聴く感じですね。
ーリストの中で新しいアルバムの楽曲を制作するにあたり、影響を受けた曲はありますか。
キタニ:直接的にこれ!っていうのはないけど、Hazel Englishの「Nine Stories」をプロデュースしたDay Waveのギターサウンドのイメージを「夜警」に取り入れましたね。Day Waveは明るいギターサウンドだけど、それを暗くしたらどうなるのかなと考えてできた感じです。

ーキタニさんは楽曲制作の時、パッとアイデアが思い浮かぶタイプ? それとも悩んだ末に生まれるタイプですか?
キタニ:考えないと出てこないですね。楽器も何も持たず、パソコンの前で悩んでいる時間が一番多い。たまに楽器を持っていてメロディがつるっと出ることもありますけど、それも1回楽譜に起こして1日置いて聴き返すまで、本当にいい曲なのかなと考えるし。基本的には理屈っぽく考えながら作っていますね。

あと、タイアップの方が悩むことが多いかもしれません。ドラマやアニメなら自分のファンじゃない人、音楽好きじゃない人にまで聴いてほしいですから。伝え方を工夫しないといけないので、悩むことはどうしても増えますね。
ーそんな中で、ソロだけでなくバンド「sajou no hana」や数々のアーティストの楽曲制作もしていることがすごいなと。
キタニ:アウトプット先がいくつも用意されているのは、逆にすごく健康的なんですよ。例えば、エビ中(私立恵比寿中学)に書いた「宇宙は砂時計」を、俺が歌うのは違うと思うわけですよ。でもこういう曲も好きだから、つくりたい欲求がある。俺らしくないなら別のところで出させてもらうみたいな。キタニタツヤらしい曲だけをつくることはしんどいし疲れるから、それこそヨルシカのサポートもそうだけど、ほかの場所での活動がガス抜きにもなるし、実験にもなって。この活動で得た音使いを手札として持っていれば、いつかキタニタツヤでも使えるなとか。逆も然りですけど。
ーさまざまな楽曲を生み出し続けている中で、今のキタニさんは言葉とメロディ、どちらに興味の比重があるのかも気になります。
キタニ:言葉ですかね。メロディは西洋音楽の枠組みだと12音の並びしかなくて、その並び替えのパターンってある程度自分の好きなパターンが確立されているんですよ。だけど、同じようなメロディでも歌詞の乗り方によって全く違って聴こえるわけです。同じメロディでも日本語と英語を組み合わせるだけで、言語の特性が違うからサウンド感が変わってくる。
ーたしかに。
キタニ:今ラップが流行っているのも、それだけ言葉が大事なんだって思うんですよ。メロディは基本的にフック以外ないですから。自分も言葉はマジで無限な感じがしています。まあもしかしたら今後悟りを開いて「言葉なんて愛しかないよ」とか言い出すかもしれないですけど(笑)。今のところ底が見えないですね。
ーニューアルバム『BIPOLAR』はキタニタツヤとしてメジャーデビュー後、2枚目となるアルバムです。アルバム名を調べてみたら「二極」「双極」という意味だと分かったのですが、この由来とは?
キタニ:アルバムを制作する段階であった『BLEACH展』のイメージソング「Rapport」「タナトフォビア」とドラマ『ゴシップ(#彼女が知りたい本当の◯◯)』の主題歌「プラネテス」「冷たい渦」の4曲をアルバムの軸にしようと思ったら、必然的にこのコンセプトが浮かび上がってきました。というのも、これらの楽曲は一つのコンテンツに対して、二通りの楽曲を書くというミッションが課せられたんですね。その時、同じような見方で曲をつくっても同じような歌詞になるから、一つのコンテンツを別の角度から見た上でそれぞれの楽曲をつくり込んでいったんですよ。


ーなるほど。だから「二極性」。
キタニ:一つの物事はいろんな見方ができて、一つの言葉で言い表せるほど簡単なものではない。こういう側面もあれば、こういう側面もあって、それがどちらも嘘ではない。俺自身、普段はめっちゃ明るいのに、つくる曲が暗いこともあります。それは無理して明るくしているわけでもなければ、暗い曲を書いているのがファイティングポーズなわけでもなく、どっちも本当の自分なんですよ。子どもの頃から人間の複雑な「二極性」について不思議に思っていたから、対となる4曲もあることだし、このコンセプトのアルバムで表現していけたらなと思いました。
ーそういう意味では1番目の「振り子の上で」の歌詞はまさに「二極性」だと感じました。
キタニ:アルバムのコンセプトが伝わりやすくなる曲であってほしいなと思い、幕開けの曲として置きましたね。
この曲を1曲目に置くことができたのは、今の時代だからだなと思います。CDを試聴機で聴いて買うのが主流だった時代は、1曲目にアーティストを象徴するようなカッコいいと思われるような“勝負曲”を置いていたと思うんですよ。でも今はサブスクが主流の時代になったから、曲順に聴かれることを想定していなくて。必ずしも1曲目に勝負曲を置かなくてもよくなった。だから、単純にアルバムを説明する曲を1曲目に置くという選択を取れたなと。
ーでは、『BIPOLAR』の中で勝負曲として挙げるとするなら?
キタニ:やっぱりタイアップがついた楽曲が勝負曲ですよ。「聖者の行進」(アニメ『平穏世代の韋駄天達』OP)も含め、タイアップの曲としてキタニタツヤを知っていただけたから、新しくアルバムに入れる曲は「キタニタツヤってこういう面があるんだ」と伝わればいいなと。好き勝手、自己満でもいいという気持ちで書きました。勝負しなくていいという気楽さがありましたね。
出典元:YouTube(キタニタツヤofficial)
ー特にキタニタツヤのエゴを詰め込んだ曲を知りたいです。
キタニ:「PINK」と「夜警」ですかね。何も考えずにつくったというか……普段なら歌詞を書く時、もっと分かりやすい言葉にしようと推敲するんですけど、この2曲は手加減なしです(笑)。100人中100人に伝えたいものは「プラネテス」「聖者の行進」でつくったから、この曲は100人中10人に伝わればいいやくらいの気持ちで書いています。
ーそういう意味でもアルバムに「二極性」を感じます。ちなみに、アルバムの中で個人的に特にお気に入りの1曲はありますか?
キタニ:「Rapport」かな。ギターがカッコいい曲はいつ聴いてもテンションが上がります。子どもの頃の自分が聴いても、ジジイになってもテンションが上がるのは「Rapport」ですね(笑)。
出典元:YouTube(キタニタツヤofficial)
ーキタニさん、久保帯人先生がお好きとのこと。『BLEACH展』のイメージソングというだけでも特別ですよね。
キタニ:そうなんですよ。絶対にいい曲を書かないとやばい!ってプレッシャーもあって眠れなかったですけどね(笑)。『BLEACH』って考察の余地がめちゃくちゃある作品だから、ファンは考察の精鋭なんですよ。言葉一つひとつについてめちゃくちゃ考える訓練をしてきているので、作詞をする上でも一言一句油断できなくて。舐めた歌詞を書いたら袋叩きにされる!怖い!と思って、原作を何回も読み返しました(笑)。でも俺としてもいい曲が書けたと思えたし、何より久保先生がめっちゃ褒めてくれたんで、それだけでOKです!(笑)
ーソロ活動、バンド活動、プロデュース活動ーさまざまな活動をされている中で、今後やりたいことはありますか?
キタニ:もっとコラボしていきたいですね。前回のアルバム『DEMAGOG』の制作が終わった後に4カ月連続コラボをしたんですけど、もっとコラボしたい人がたくさんいて。コラボの仕方も『BIPOLAR』収録曲の「ちはる」のようにギターを弾いてもらうだけ(ヨルシカのn-bunaがギターを担当)とか、俺が編曲だけ担当するとか、楽曲制作には一切入らずボーカルとコーラスのアレンジだけやるとか。いろんな手法や距離感でコラボってできるじゃないですか。それはどんどんやっていきたいですね。

ー常に新しいクリエイティブを吸収していきたい、みたいな気持ちも?
キタニ:ありますね。すごいクリエイターの仕事を間近で見て吸収したい。逆に相手にとっても俺の制作スタイルがヒントになってくれたら嬉しい。やっぱりモノづくりをする上で対話で得られることがたくさんあるから、そういう意味でもいろんな人とコラボしたいんですよね。
ーそれは世の中的により良い音楽を生み出したいという対外的な目的の上でなのか、自分の中でより好きな音楽をつくりたいという内向的な目的の上でなのか、どちらなのでしょう。
キタニ:どっちもありますけど、どちらにせよ良い人間になりたいというのが目的ですかね。
ー良い人間になりたい、とは……?
キタニ:今は音楽が好きですけど、ジジイになっても好きかは分からない。でも、良い人間であることはジジイなっても普遍的じゃないですか。そう考えると、狭い価値観の中で考えを巡らせるより、人と対話をした方が得るものは確実に多いから人間レベルが上がっていくんじゃないかって(笑)。
ーさまざまな人とのコラボを積み上げて人間レベルの上がったキタニさんがつくる楽曲は、今とはどんどん違うものになりそうで楽しみです。
キタニ:ね。キタニタツヤとして活動を始めた時に想像していた自分とは、全く違うところに今の自分がいるから。また何年後、自分がどうなっているのか楽しみです。

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