Yunomiに聞く、”発想の限界”を超えるための創作論 『Live』と向き合って辿り着いた手法とは – Real Sound

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「わたしたちの『Live』」
 DTMが普及するなかで、プロ・アマチュア問わず様々なアーティストがDAWを使うようになった時代。アーティストたちはどのような理由でDAWを選び、どのようなことを考えて創作しているのか。また、キャリアを重ねるうえで、自身のサウンドをどのように更新しているのか。
 『Live』でお馴染みのAbletonとタッグを組み、それぞれのアーティストのDAW遍歴やよく使っているプラグインやエフェクトなどを通じ、独自の創作論に迫っていく連載企画「わたしたちの『Live』」。第三回目となる今回は、さまざまなアーティストへの楽曲提供や主宰レーベル〈未来茶レコード〉の設立など、活躍の幅を広げ続けているYunomiに話を聞いた。「空間をデザインするような形で音楽を作っている」と語る彼は、どのようにして『Live』を活用しているのか。
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 ――Yunomiさんはいつごろから『Live』を使っているのでしょうか?
Yunomi:購入履歴を見たんですけど、2013年から使い始めたみたいです。それより前はPropellerheadの『Reason』を使っていました。当時はオーディオファイルも使えなかったので、DAWとは言えないかもしれないですが。それからアイドルの楽曲制作などのお仕事をいただくようになったころ、オーディオをちゃんと取り扱おうという気持ちになってAbleton『Live』を見た目のシンプルさで選んだんです。
――使いやすさやUIのシンプルさに惹かれたんですね。
Yunomi:そうですね。『Reason』はひとつのプラグインや機材をとことん使いこなすみたいな使い方だったんですが、『Live』は全体的なUIが僕的にはひとつの機材のように見えて。ひとつの大きなシーケンサーであり、サンプラーであるというか。ほかのDAWはいかにも業務用という感じがしたので、ちょっと肌に合わなかったんですよね。
――その後、楽曲の提供など納品の機会も増えていったと思うんですが、そうなったとき他のDAWに移らずにAbleton『Live』を使い続けたいと思った理由は?
Yunomi:僕としては、自分の中にあるものを自然にアウトプットする道具として手に馴染むかどうかが一番大事だと思っていて。ひとつの楽器として向き合ってきたというのもありますから、それなりの時間触っていると本当に手足のように使えるようになってくるんですよ。なのでそもそも他のDAWに移る理由がなかったですね。できないこともありましたけど、僕はその制限が面白いなと感じていました。
――「手に馴染む」というのは、Yunomiさんの楽曲の作風にも影響を与えてる部分がありそうですね。Yunomiさんの曲を聴いているとフィジカルさを感じるというか、ダンスミュージックとしての手数の多さと強度が初期のころから両立しているなと思うんですよ。手足のように扱えるからこそ身体的なエッセンスが入ったりするのかなと。
Yunomi:多分、それはSimplerとDrum Rackだと思います。Ableton『Live』を最初に使い始めたとき、まずSimplerとDrum Rackを使いこなせるようになろうと思って。Drum Rackにはとにかくいろんなサンプルを入れることができて、ハードディスクの中に大量のサウンドライブラリがあって。どのフォルダになんの音が入ってるかというのは、いじっていくうちに頭に入っちゃうんです。それでここのシーンにはこの音が欲しいと思ったものを、机の上にいつもあるペンみたいにスッと手にとって、描いて、また戻して、違うペンを取って……と次々に配置していく。このプロセスが身体に馴染むのが早くて、2016年から2019年くらいまでは、それをしばらく続けていました。「KONTAKT」などを使ったこともありましたけど。やっぱり頻繁に音像が変わっていく曲が聴いていて楽しいので、そういうものを作りたかったんですよね。
――ライブラリなどに頼らずに突き詰めてきたからこそ、Yunomiさん独自のオリジナリティに昇華されたというのもあるんでしょうね。
Yunomi:楽器の演奏者じゃない人たちがノートパソコンとDAWを手に入れて、友だちとサンプルの交換とかするわけですよ。そういうコミュニケーションの中から、「俺ならこのサンプルをこう使う」という独創性を競い合っていく過程で生まれた音像じゃないかと思います。上から下まで、極限まで使い切る。そしてこの先にはサラウンドやバイノーラルといったイマーシブな音像にフォーカスしていくような音楽がくるんじゃないかって思います。
――Yunomiさんの音楽は、そういったイマーシブなものとも相性がよさそうですよね。話を戻しますが、SimplerやDrum Rackを極めていく時期のあとに、Yunomiさんが極めたものはなんだったんですか?
Yunomi:2019年くらいからはサンプルを使わない時期を作りましたね。それまで頭の中に何百GBという音源があってそれを自在に操るという方法で作ってたんですが、そのライブラリに頼らず、サンプルをいちから作ってみようという方向にシフトしました。ルールを作って、そのルールを元に何かに演奏させることにも面白さを感じたので、この2、3年はモジュラーシンセやドラムマシンを少しずつ取り入れ始めています。
――有限なものを手足のように使っていたころから考えると、素材をイチから作るというのは、キャンバスの広さが圧倒的に違いますよね。頭の中にあるものを際限なく出せますし、それを別のものに演奏させることで、不確実性や偶然性も付与できる。
Yunomi:そうですね。
――とはいえ、曲作りにおいてはより時間がかかることになるんですよね?
Yunomi:……はい(笑)。すごく時間がかかるようになりました。
――「なんとなく素材はできたから、次はこれを3分弱の曲として成立させよう」という切り替えや、そこからの組み立てはどのように行っているんですか?
Yunomi:Abletonの『Push』を使ってます。それまで『Live』ではアレンジメントビューしか使ってなくて、セッションビューは使っていなかったんですよ。これをどう使えばいいんだろうと考えていたときに、『Push』を導入して作った自分の演奏を使って、さらに演奏する……言うなれば「録音物でさらに演奏する」みたいなやり方を思いつきました。クリップを選択しながら演奏する機能で、手元にある素材を全部使い切って「これ以上は絶対にアイデアが出てこない」というくらいまで鳴らしていくと、
――無限かもしれない手元の素材を、『Push』を使って有限にすると。
Yunomi:まさにそういうことですね。
――『Push』はそのために導入したものだったんですか?
Yunomi:そもそもは自分が「スケール(音階)」に向き合いたくて購入したものでした。メジャー・トライアドのようなシンプルなコードを押さえる指の形を保ったまま、マイナースケールなどの他のスケール上にあるコードを素早く検討することができます。そういう方法で自分の発想にないものを得たいなと『Push』を導入し始めました。
――それは先ほどの話とも繋がりますね。有限性があるものから逃れて、そこに不確実性を足していくという。
Yunomi:そうですね。どうすれば発想の限界を越えられるか、ということを突き詰めた結果の選択です。

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