来るべき地殻変動の予兆はあったか? 栗原裕一郎の『POPS Parade Festival 2016』レポート – Real Sound

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新代田FEVER『POPS Parade Festival 2016』レポート
 2016年4月30日、新代田FEVERで『POPS Parade Festival 2016』が開催された。音楽情報サイト『ポプシクリップ。』がサイト開設7周年を記念し主催したもので、13、14年と過去に2回開催されてきており今回で3度目のイベントとなる。
 出演バンドは登場順に、北川勝利(ROUND TABLE)、risette、杉本清隆(orangenoise shortcut)、TWEEDEES、Swinging Popsicleの5組。この組み合わせは気紛れではなく必然的なものだ。どう必然なのかは話すうちにおいおいわかってくるだろう。
 新代田FEVERのキャパは300名だそうだが、かなりの盛況で人が入りきらず、開始後北川が前に詰めるようフロアに呼び掛ける一幕があった。客層は20代から30代が中心層だろうか、男性客の比率がだいぶ高いようだ。このイベントの1週間前、4月23日のTWEEDEESワンマンでオープニングを務めたPOLLYANNAのメンバーの姿も会場で見かけた。
 ひとまず各バンドの感想を簡単に述べていこう。
 北川勝利のバンドは、山之内俊夫(ギター)、高井亮士(ベース)、末永華子(キーボード&コーラス)というディスティネーションズでもお馴染みのメンバーに、藤村鼓乃美(コーラス)、杉本清隆(パーカッション&コーラス)、渡邊シン(ドラム)という編成。藤村は声優で、北川のプロデュースでミニアルバム『SUMMER VACATION』をリリースしている。昨年10月の北川とTWEEDEESのツーマン、今年1月の北川ワンマンでもコーラスと一部ボーカルを務めていた。
 インストの「Radio Tome A Go-Go!!」から「Goin’ To The Radio Show」に移ると会場のテンションはいきなりマックスへ!……と書くとよくあるライブレポのようだが、実際早々に会場は仕上がっていた。最後方にいたせいでステージはほとんど見えない。メロウな北川の声がこの日は少しハードに聞こえた(MCの声のほうがメロウだった)。
 メジャーデビュー前のミニアルバムの曲から、最新の4thアルバム『FRIDAY, I’M IN LOVE』の曲まで、新旧取り混ぜて9曲が演奏されたが、盛り上がりのピークはM6「Beautiful」だろうか。
 ROUND TABLE featuring Nino名義の楽曲だが、この日は藤村鼓乃美によるボーカルで披露された。feat. Ninoの楽曲がNino以外の歌い手で演奏されたことがあるのか寡聞にして把握していないが、Ninoの歌に思い入れのあるファンが少なくないだろうことは想像がつく。藤村による歌唱はよくはまっており、ファンも快く受け容れていたように見えた。それどころか、可愛い! と藤村鼓乃美、大人気であった(異論はない)。
 北川勝利の次回ワンマンライブは10月29日、同じく新代田FEVERとのこと。チケットの出足が早いということだったので急げ。
 risetteは、ギターのTsugaiがギターを電気ドリルに持ち替えた(?)とかで欠席、常盤ゆう(ボーカル)と森野誠一(ギター)のメンバー2人に、三重野徹朗(ベース)、ワクシマユミ(キーボード)、森谷諭(ドラム)をサポートに迎えての演奏だった。
 森野は、マキタスポーツ率いるヴィジュアル系バンドFly or Dieのベーシストとしても活動している。マキタスポーツのブレーンといってよいだろう。
 セットリストは6曲。02年の2ndミニアルバム『POWDERY VIEW』と08年の1stアルバム『risette』からの曲を中心に、chocolatreとのコラボ曲「シアン」を織り交ぜた構成だった。
 常盤ゆうのボーカルは、CDで聴くのとは印象が少し違った。ハスキーなのに透明感のある独特の声質という点に変わりはないのだが、よりエモーショナルに存在感が伝わってくる。Cymbals時代の土岐麻子が「あまりパキッと晴れることはなく、くもりがち、しかもそれはとてもきれいなくもり空」と評したサウンドの印象は、常盤のボーカルが左右しているように見えるが、良い意味でルーズさを感じさせるバンドのグルーヴに依るところも大きい。M1「タウンホール・ミステリー・ツアー」にそのグルーヴの特色がよく出ていただろうか。
 観客がもっとも反応していたのはM3「tangerine」だ。疾走感を持たせた7拍子というトリッキーな楽曲だが、そんな曲調でもどこかゆったりと聴かせる。この曲はコナミの音楽ゲーム『pop’n music』のために書かれたもので(ゲーム版のタイトルは「tangeline」)、アレンジを変えてミニアルバムに収録された。常盤は『pop’n music』やその元祖にあたる音ゲー『beatmania』の楽曲で数多く歌唱を担当してきた。
 最後のMCで森野が、今年はそろそろアルバムを出したい、ライブももう一回くらいやりたいと話していた。
 三番手は北川勝利のバックでパーカッションを叩いていた杉本清隆。杉本は元コナミの社員で『beatmania』『pop’n music』などの音楽制作を手掛けていた人物である。退社後は音楽家として活動しながら『pop’n music』をはじめ『CROSS×BEATS』や『ガールフレンド(仮)』など音ゲーやアニメへの楽曲提供を引き続き行っている。
 杉本のバンドは、杉本(ボーカル&キーボード)、きだしゅんすけ(ギター&コーラス)、永田範正(ベース)、山田幸治(ドラム)という編成。杉本いわく「比較的新しめの曲のセットリスト」で6曲が演奏された。
 M1「Highway star chaser」からM2「Techno Highway」へと「高速道路」をハブに2曲。「高速道路情報を聞いていたら天気予報が……」というちょっと(かなり?)強引な繋ぎで新曲の「天気予報」へ。そして「Landing on the moon」。
「月に行ったらおうちへ帰りたくなっちゃって」という前振りで演奏されたのは、M5「Homesick pt.2&3」。客席の体温が数度上がったようだ。ORANGENOISE SHORTCUT名義で『pop’n music』他に提供された、ポップンファンにはとりわけ思い入れの深い人の多い楽曲であることを後ほど知る。「Techno Highway」、「Landing on the moon」はカプコンの音ゲー『CROSS×BEATS』が初出の楽曲である。
 次回ライブは、7月30日に札幌で開催される『Guitar Pop Restaurant vol.32~ワイルド・サマー/ピアノでゴーゴー』とのこと。
 TWEEDEESは、沖井礼二(ベース)と清浦夏実(ボーカル)によるユニットで、1週間前のワンマンに引き続き、山之内俊夫(ギター)、末永華子(キーボード&コーラス)、坂和也(キーボード&オルガン)、原“GEN”秀樹(ドラム)をサポートに迎えての演奏だった。山之内と末永は北川バンドと掛け持ちだ。
 「速度と力」「STRIKERS」「PHILLIP」と続けて3曲。すべて新曲である。
 ここで沖井によるMC。最初から飛ばしていたせいで早くも息が上がっている。「3曲でバテバテじゃないですか」と突っ込む清浦。
「えー、今日はすべて新曲です。1stアルバムで予習してきた方、全部ムダです。残念でした!」
 文字で書くとニュアンスが伝わらないが、邪気のないいたずらっ子(ただしいい年の大人)の発言、関西弁でいうところの「いちびり」なイメージで読んでもらうといいと思う。
 TWEEDEESはぜひともライブを見るべきである。ひとつはその音圧を体感するため。もうひとつは沖井のMCを体験するため。沖井が後日ツイッターにアップしたセットリストではMCが「ひとこと」と指示されていたが、毎回ひとことではまったく済まない。沖井の暴走するトークを冷ややかにいなす清浦という構図ともども最高である。MC目当てに足を運ぶお客さんもいるとかいないとか。いずれさだまさしのようにMCだけを集めた音源が発売されることであろう。
 続いてMC(これまた長い)を挟みつつ「バタード・ラム」そして「BABY, BABY」の計5曲。ワンマンからわずか1週間でグルーヴが更新されている。清浦のボーカルは、透明感と、それと裏腹の線の細さを特徴とすると思っていたのだが、この日は力強さを垣間見せる局面もあり一皮剥けた印象だった。
 Swinging Popsicleは、オリジナルメンバーである藤島美音子(ボーカル&ギター)、嶋田修(ギター&コーラス)、平田博信(ベース&コーラス)の3人に、吉田明宏(キーボード)、森信行(ドラム)をサポートに迎えての演奏だった。
 現在は事務所にもレコード会社にも所属しないで活動しているそうだが、韓国、アメリカ、メキシコなどにも活動の場を広げており、昨年12月に発表された最新ミニアルバム『flow』は世界119ヶ国に配信されている。
 20年間コンスタントに活動してきたバンドらしく、新旧幅広く取り混ぜた全8曲のセットリスト。新作『flow』からは2曲と控えめである。
 奇を衒わない良質なギターポップだ。この日登場したバンドの中で一番中庸な音だろう。2000年代以降こうしたオーソドックスなポップスは日本の音楽シーンでは居場所が小さくなっていった。
 だが、オーソドックスというのは普遍的ということでもある。この日登場したすべてのバンドに通じることだが、ギター、ベース、ドラム、キーボードというポップスの基本構成要素が根底から崩れることはまずないのであり、浮沈しているのはサウンドではなくイメージだ。
 1曲目に演った「I love your smile」は彼らの2ndシングルで18年前の曲だけれど、今聴いても古びていない。正確にいえば古くも新しくもない。M2「mobile phone」とM3「Small Blue Sailboat」は『flow』からの曲だが、並んでしまえば20年弱の時間の隔たりは感じられない。熱心なリスナーではなかったので、このライブの前に新旧の盤を、沖井の言い方を借りれば「予習」したので、折々に新しい試みがあるのは承知していたが、生演奏は意匠を剥ぐから骨組みが露わになる。このバンドの骨格は約20年間変わっていないということだ。
 そして、さっきも似たような感想を述べたが、生で聴く藤島の歌声はCDをはるかに超えて素晴らしかった。
 最後に出演バンド総出で、ジャクソン5「I’ll be there」のセッション。『flow』にカバーが収められているのでそれにちなんだ選曲だったのだろう。はしゃぎ回る沖井をクールにあしらう北川という構図が、ついさっき見たTWEEDEESでの情景の反復のようだった。






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